双眼鏡の性能

「双眼鏡の性能」と一言でいっても様々な角度があります。7つの項目に分けて説明しましょう。

1、コーティングの質

レンズにコーティングをすると、反射をおさえ、像を明るくすることができます。コーティングなし→モノコート→マルチコートという順に、像がより明るくなります。

双眼鏡には両目をあわせて10枚以上のレンズ、プリズムが使われています。カタログにマルチコートと表記されていても、全てのレンズとプリズムのうち、何枚がマルチコートされているかにご注意ください。対物レンズ一枚ということもありますが、それではあまり意味がありません。これはメーカーに問い合わせないとわからないこともあるので、要注意です。マルチコートの面が多ければ当然、そのぶんだけ像は明るくなります。

(詳しくは、用語集「コーティング」 をごらんください)

2、視界の広さ

視界は狭いより広いほうが良いと思うのが自然でしょう。確かに広い視界は気持ちがいいものです。

しかし視界を広くすれば、設計は複雑になり接眼レンズの枚数が増えます。また、視野の周辺までゆがみなく見せようとするとさらに枚数が増えます。当然コストは上がります。コストを上げずに視界を広げようとすると、レンズの材質がプラスチックになってしまうこともあります。

それほど視界が広くなくてもゆがみなく見えるほうが好きだという人も少なくありません。視界は広ければよいというものではなく、明るさ、ゆがみ、像のシャープさ、コストなど、他の要素とのバランスが重要なのです。

(詳しくは、用語集「視界」 をごらんください)

3、アイレリーフの長さ

アイレリーフが長いと、メガネの上から双眼鏡をのぞくことが可能です。しかし、そのためにはレンズの枚数を増やす必要があります。アイレリーフの長さと視界の広さと両立しようとすると、更に枚数が増えます。これもバランスが重要です。

(詳しくは、用語集「アイレリーフ」 をごらんください)

4、収差の少なさ

収差とは、様々な形で現れる像のゆがみのことです。視界を広げ、アイレリーフを延ばしたうえで、さらに収差を少なくしようとすれば、レンズ枚数はどんどん増えます。高級双眼鏡は、限界まで収差を抑えようとしていますが、その分価格はあがり、10万円を簡単に超えてしまいます。

(詳しくは、用語集「収差」 をごらんください)

5、レンズの材質

当然ですが、樹脂(プラスチック)のレンズよりも、ガラスのレンズのほうがコストがかかります。

双眼鏡のレンズは大抵ガラスだと思われていますが、そうでもありません。

(詳しくは、コラム「樹脂レンズと非球面レンズ」をごらんください)

6、プリズム

一般的な双眼鏡には、ポロ型とダハ型があります。この二つは、プリズムの形状や配置が異なります。

ダハのほうが現代的で優れているように思う方が多いようです。しかしポロにも優れた点は多く、むしろローコストで見え味の良い双眼鏡を作るには、ポロの方が向いています。

どこの工場でも「本当はポロのほうが優れた点が多いんだけど・・・」という声を聞きます。業界の認識と市場(お客様)の認識に違いがあるのです。

市場に占めるダハの割合は増える一方ですが、これは流行でしかありません。流行よりも実力を重視したいと考えているので、日の出光学の双眼鏡はポロが多くなってしまいました。

(詳しくは、用語集「双眼鏡の型式」

プリズムの材料(硝材といいます)は、BK7よりBak4のほうが高性能で高価です。高級な機種では、さらに高コストな材料が使われることがあります。プリズム硝材の性能は屈折率の高さで決まります。

(詳しくは、用語集「プリズム」

7、鏡体(ボディ)

ボディはプラスチックより金属のほうが頑丈ですが、重くなります。防水にすれば、さらに重くなり、コストがかかります。

双眼鏡を作るとき、コスト、重量、頑丈さなどを、用途を考えてバランスをとりながら、ボディを選びます。

なによりバランスが大事です。

良い双眼鏡は、上の七つをはじめとする、全体のバランスが優れています。

ツァイスやライカ、スワロフスキーといったメーカーからは、多くの双眼鏡愛好家が認める最高峰の双眼鏡が発売されています。もちろん私も魅力は感じるのですが、価格30万円以上、重量750gという双眼鏡を海外旅行に持っていける度胸はありません。どれだけ良く見えたとしても、高級すぎたり荷物の負担になったりしたら、どこにでも気軽に持って歩きたいという要望には答えられないのです。

逆に、本格的なバードウォッチングに挑戦する場合は、見え味や防水性能を優先させたいので、重さや価格についてはある程度我慢したほうが良いかもしれません。(まあそれでも30万円は高すぎますよね・・・(笑)。)

いずれにしても、重さや価格だけでなく、上に書いた様々な要素を、用途に応じてうまく組み合わせていく必要があります。

ただ、双眼鏡は流行に流されやすい商品であり、その「流行」が双眼鏡のバランスを大きく崩してしまうことがあります。(詳しくは、コラム「100倍ズームと双眼鏡売り場の流行」 をごらんください。)私たち日の出光学は、売り場の流行に左右されない、バランスの良い双眼鏡の提供を目指しています。