双眼鏡はカメラレンズと同様に複雑なものです。
「双眼鏡って、カメラレンズと同じくらい複雑なんですよ!」 こんな話をすると、結構驚かれる方も多いですが、ある意味で、決して間違ってはいないと思います。
たとえば、一般的なズームレンズだと、3万円程度の場合、8群9枚構成とかそういう感じですよね。 確かにカメラレンズの場合、3万円程度のものでも、非球面レンズを使って球面収差を減らし、EDレンズを使って色収差を減らすなど、高級な材料が使われていることもあり、そういう面では、非常に複雑です。しかし、構造としては、ひとつの筒に全てのレンズが収められたシンプルな構造なわけです。光路(光の通り道)もまっすぐで、一本だけです。
これに対して、たとえば、ヒノデの6x21-S1は、レンズは、一群二枚の対物レンズと二群三枚の接眼レンズで、EDも非球面も使っておりません。レンズを見る限りでは、さほど複雑には感じられません。ただ、これにプリズムが二つ組み合わせられ、さらにはそれら全てが左右にひとつずつ搭載される、ということになると、光学系は、あわせて14枚(個)の構成となり、結構な数です。
光路は左右にひとつずつあるうえ、正立像を得るために、プリズム反射を使って、四回も曲がります。光路を曲げた上で、光軸(光路の中心)をまっすぐに保ち、さらに左右の視軸をあわせる必要があります。
この視軸がずれると、右と左で見ている像が微妙に違ってしまいます。視軸は、眼幅が広い状態でも狭い状態でもきっちり合っている必要があります。眼幅を変えたら視軸がずれてしまうというのでは困りますので、ボディにも一定以上の精度が求められます。
精度が約束されていたとしても、全てのレンズとプリズムを、ただボディの中に詰め込むだけでは、ちゃんとした双眼鏡は完成しません。プリズムの角度をきっちり調整し、ずれないように固定する必要があります。これで初めて完成です。
このように見ていくと、双眼鏡って、意外に複雑な光学機器だと思いませんか?ライカやツァイス、ニコンが、それほど売れるわけでもない20万円前後の双眼鏡を作り続ける理由は、高性能な双眼鏡を作れるということ自体が、技術の証明になるから、ともいわれています。光学技術屋の意地とプライドをかけて、作っているのでしょう。
このように、双眼鏡の構造や製造工程に思いをはせると、自分の持っている双眼鏡に対する思い入れもひときわ強くなりますよね。