倍率と売り場の声
コラム「双眼鏡選びの基本」でもふれましたが、超高倍率の双眼鏡はどの分野からも求められていません。それなのに販売され続けているのはなぜでしょう?
例えば、新聞の通販、ホームセンターやネットオークション・・・手のひらサイズの100倍ズーム双眼鏡とか、見かけたことありませんか?
残念ながら、あれはまともな双眼鏡ではありません。
ズームを100倍に合わせたときの視野は狭く真っ暗で、ほとんど何も見えません。一番低倍である20倍に合わせても、かなり暗く、見づらい感じです。
なぜそんなおかしな物が普通に売られるようになったんでしょう。
新聞の通販や、ホームセンターなどでは商品説明を十分にするスペースがありません。販売員もそれほど双眼鏡に詳しくありません。
お客様は「高倍率=高性能」と思っているので、高倍率の商品を選びます。8倍と20倍なら、20倍のほうが売れるわけです。その動きがやがて「売り場からの声」となり、製造元に届きます。
「この声に応えなくては!」
製造元は、より倍率が高い商品を作るようになりました。
「これ以上倍率を上げると性能が悪化するかもしれない。」
それがわかっていながら、「売れる」という結果には逆らえず、どんどん倍率を上げてしまいます。そしてついに、双眼鏡の倍率は100倍に達したのです。通常、手持ちで使える限界と考えられている倍率は10倍ですから、驚くべき数字ですね。
ズームという言葉の親しみやすさ
また、「ズーム」という言葉も耳ざわりがよく、入門者はつい飛びつきたくなるようです。カメラの世界ではズームレンズがポピュラーだからでしょうか。ズーム双眼鏡も、売り場の流行に乗ってずいぶん増えました。
しかし、一般的な双眼鏡にズーム機能は不要です。
最初は面白いので、ズームを使ってみるかもしれませんが、やがて、高倍率にする機会はほとんどなくなります。上で説明したとおり、高倍率には大きなデメリットがあるからです。実用的ではないのです。
結果、低倍率で使うことになりますが、ズーム機能付きの双眼鏡は、低倍率の時の見え方が、ズームなしの双眼鏡に大きく劣ります。
ここで、通常の6倍双眼鏡と6~20倍ズーム双眼鏡を6倍に合わせた場合を比べてみましょう。
同じ6倍でも、ズーム双眼鏡は、視野がかなり狭く感じられます。これは、ズーム機能を持たせたことで設計が複雑になり、視界の広さが犠牲になったためです。
また、見える像は少し暗く感じられます。これは、ズーム機能を持たせるためにレンズの構成枚数が増えるからです。
ツァイス、ライカ、スワロフスキー、ニコン、コーワなど有名ブランドの10万円を超えるような高級双眼鏡にも、ズーム機能はありません。双眼鏡愛好家方々は、ズームというだけで大抵は、見向きもしません。
全てのズーム双眼鏡が悪いわけではありませんが、犠牲になるものが大きすぎるのです。
私たちは、双眼鏡は、使い勝手が命と考えています。使い勝手がよければ使用頻度はあがります。双眼鏡は使われ続けてこそ意味があります。だから、商品の企画開発にあたっては、使われ続けるような、良いバランスの双眼鏡作りをめざしています。