ダハとポロを比べてみたら

1、ダハの補助プリズムの反射について

双眼鏡は、プリズムがないと上下がさかさま(倒立像)になってしまいます。プリズム内部で何回か反射することで、上下が正しい像(正立像)に直します。

ポロダハも、プリズムを使って正立像を得ている点は同じですが、そのプリズムの構成が違います。内部のプリズム構成図はそれぞれ、用語集「ポロ」用語集「ダハ」でご確認いただけます。

ポロプリズム内部での反射はすべて、プリズムの全反射を利用しているため、光の損失がありません。しかしダハの場合、補助プリズム内での2回目の反射が、プリズムの全反射を得られません。入射角が小さすぎるため、反射せず、透過してしまうからです。

これを解決するため、プリズムのその面だけにメッキを塗って、反射がおきるように加工します。メッキは、通常のアルミの場合は90数%、高性能なメッキの場合は99%以上の反射率が得られます。

アルミの場合は10%弱の光が失われるということです。一方、誘電体多層膜などの高性能なメッキの場合、失われる光は1%以下ですが、大変コストがかかります。

光を失えば、双眼鏡全体の光線透過率は低下します。これは像の明るさや、コントラスト、解像度に影響するので致命的です。

2、ダハプリズムにもとめられる高い精度

ダハ(dach)とは、ドイツ語で屋根という意味です。英語では同じように屋根という意味で、ルーフプリズムとも呼ばれます。

下の図をごらんください。稜線(りょうせん)を頂点にして、三角屋根のような形をしている部分がありますね。そこをダハ面と呼んでいます。

用語集「ダハ」の中の図では、右上の小さな絵のように、ダハプリズムを省略して表現しているため、反射の回数は3回に見えます。しかし、立体的にあらわすとダハ面で2回反射(反射2、3)するため、全部で4回反射しているのがわかります。

上の図では、光の入口がプリズム面の奥側でした。それがダハ面での反射(反射2、3)を通して光は奥から手前に移動し、最終的に光の出口はプリズム面の手前側になっています。

下の図では逆に、光の入口は手前側で、出口が奥側です。

繰り返しますが、双眼鏡のプリズムは、倒立像を正立に直すためにあります。ダハプリズムにおいては、手前と奥の像をひっくり返すことで、像の上下をひっくり返し、倒立した像を正立に直しています。

もちろん、稜線に真正面からぶつかる光もあります。この光は残念ながらうまく反射しない可能性があります。だから、稜線は細いほどよく、磨いたさいのバリ(磨き残し)が出ていてはいけません。これは作る側からすれば、とても難易度の高い加工です。

ところで、実際に直角の屋根型にした鏡を用意すると、ダハプリズムの働きが体感できます。下の図のような感じで写真を撮影してみました。

撮影結果を見てみる前に、普通の鏡に向かって撮った写真を見てみましょう。当たり前ですが、左右がひっくり返っています。

次に、撮影結果を見てみましょう。上下が逆さになっています。カメラのボディに印刷された文字を見ると、左右は正しく出ているのがわかります。

ダハプリズムの屋根の頂点の角度はぴったり90度でなくてはなりません。90度より大きいと、下の写真のように上下が真ん中に寄ってしまいます。

逆に90度より小さいと、下の写真のように上下に分離してしまいます。

この角度は90度に近ければ近いほど良いのですが、最低でも誤差3.2秒(約0.0089度)以内という、とても高い精度が求められます。これにはコストがかかります。

さらに、ここでは説明し切れませんが、ダハプリズムには、ほかにも像を悪化させる原因があります。それを補正するためには、ダハ面にフェイズコートという特殊なコーティングが必要になります。これも大変高価です。

3、もう少しだけポロにも愛を

ダハには、対物レンズと接眼レンズの配置が一直線上におけるという大きなメリットがあります。(詳しくは用語集「ダハ」で。)このおかげで、横幅を短く、コンパクトにまとめることができます。

しかし、この一つのメリットを実現するために、おおきなデメリットを抱えなくてはなりません。メッキを施し、プリズムを高精度にして、ダハをポロと全く同じ見え味に仕上げようと思うと、ポロの倍以上のコストがかかるといわれています。

ポロプリズムの角度は、ダハほどの正確さは必要ありません。90度が最も効率的なので90度にしていますが、仮に80度や100度だったとしても機能しないわけではありません。角の部分はすべて、光が通らないように設計されているので、できるだけ細くする必要もありません。たいていの場合は丸く削って面取りしていまいます。ポロのほうが簡単に良い見え味を実現できるわけです。

私は決してダハが嫌いなわけではありません。ただ、もっとポロを見直してあげても良いかな、と思うのです。