双眼鏡で星を見る(冬・春編)

この記事では、双眼鏡でみる、冬・春の星空を解説します。夏・秋の星空を紹介する「双眼鏡で星を見る(夏・秋編)」はこちらをクリック

双眼鏡は肉眼強化装置

双眼鏡や望遠鏡は、遠くの景色を拡大して見ることができます。特に両眼で見られて、しかも手持ちで使える小型の双眼鏡は、景色を眺めたり、スポーツ観戦、美術鑑賞、野鳥や天体観察など、さまざまな目的において気軽に利用できるアイテムです。

遠くの景色が大きく見えるということは、近くに寄って見ていることと同じことだといえます。たとえば、野鳥観察では、鳥に気づかれずに遠くからその姿や仕草を子細に観察することができます。また、スポーツ観戦なら、試合のじゃまをすることなく、選手の表情をまるでその選手が目の前にいるかのように見ることもできます。

天体観察の場合では、特にレンズの口径が大きくて倍率の高い天体望遠鏡にはおよびませんが、手持ちで使える小型の双眼鏡は、両眼の性能を簡単にアップさせることができる「肉眼強化装置」だといえるでしょう。

明るい夜空でも暗い星まで見える

双眼鏡での天体観察なら、はるか遠くの天体に近づいたかのように、その天体を大きく見ることができますが、じつは天体観察の場合、もうひとつ双眼鏡を使う大きなメリットがあります。それは、肉眼で見るよりもはるかにたくさんの暗い星が見えてくるということです。

たとえば、大きな都市部では、地上の明かりに照らされて夜空が明るくなっています。そのため、都市部の夜空では、よく晴れていたとしても明るい星をいくつか数えられる程度です。ところが、そんな明るい夜空でも、双眼鏡で眺めると暗い星まで見えてくるのです。

双眼鏡はレンズで光を集めます。光を集めて眼に届ければ、暗い星も見えて当然です。でも、それだけではありません。

都市部を離れて、街明かりの影響の少ない海岸や高原など、たくさんの星を見ることができます。それは、夜空そのものが暗いからです。つまり、夜空の部分が暗くなれば、点として輝いている星は、暗いものまで見えるようになってくるのです。

双眼鏡や望遠鏡では、実際に見える夜空よりも双眼鏡や望遠鏡を通して眺めた夜空のほうが暗く見えます。視界が暗くなれば、暗い星は見えにくくなるように思えますが、夜空が暗くなったのと同じような効果で、じつは暗い星が見やすくなるのです。

たとえば大都市の郊外など、星座を形作る星がかろうじてわかる程度の明るい夜空では、肉眼で見えるのはおおむね3等星よりも明るい星です。そんな夜空で、地平線の上に見えている星は、全天(地平線より下にある星も含め)で、280個ほどしかありません。

ところが、口径20~50mm、倍率5~10倍程度の双眼鏡を使うと、より暗い7~8等星ほどまで見えてくるのです。その数は全天で65,000個ほどにもなります。

さらに、高原など夜空が暗くて肉眼で見ることができる限界の6等星までが見えるような好条件の夜空では、口径20~50mm、倍率5~10倍程度の双眼鏡を使えば、なんと9~10等星くらいまでが見えるようになってきます。その数、全天でおよそ28万個。双眼鏡を夜空のどこに向けても星がたくさん見えるのです。

ただし、面積を持った星雲のような天体は、夜空と同様に暗くなってしまうので、そのような天体は、できるだけ夜空の暗い場所で観察するのがよいでしょう。

冬に見たいおすすめ天体

M45(プレアデス星団/すばる)

冬の星空の中で、特に目立つ天体といえば、「おうし座」の「散開星団」であるM45でしょう。

西洋ではギリシア神話に登場する7人姉妹に由来する「プレアデス」、日本では集まっている様子を表す「統(す)ばる」から「すばる(昴)」の名称で親しまれてきました。また、日本では「むつらぼし(六連星)」とも呼ばれていて、その名の通り、肉眼では6つから7つほどの星が数えられますが、双眼鏡で眺めるとさらに暗い星がいくつも集まっていることが分かります。

明るい星がたくさんある冬の星空の中で、探すまでもなく、街明かりの影響で夜空がさほど暗くない場所でもその存在はすぐにわかるはずです。

5×21-A5でみるM45(住宅街などの明るい空)
5×21-A5でみるM45(山間部、離島などの暗い空)
6×30-B+でみるM45(住宅街などの明るい空)
6×30-B+でみるM45(山間部、離島などの暗い空)
8×42-D1でみるM45(住宅街などの明るい空)
8×42-D1でみるM45(山間部、離島などの暗い空)

ヒアデス星団

冬の1等星のなかでもオレンジ色で目立つのは、「おうし座のアルデバラン」です。このアルデバランを起点にしてV字形に明るい星が並んでいますが、これが「散開星団」の「ヒアデス星団」です。星座絵では、V字形の星の並びは雄牛の顔の部分で、アルデバランは雄牛の目の位置に輝いています。

双眼鏡で眺めると、明るいアルデバランのオレンジ色も判別しやすくなり、広い範囲に比較的明るい星が並ぶので、低倍率でもじゅうぶん楽しめるエリアです。また、街明かりがあっても、1等星のアルデバランが見つかれば、すぐに双眼鏡を向けて楽しめます。

ヒアデスの名称もギリシア神話の7人姉妹が由来で、神話の中ではプレアデスの7人姉妹と異母姉妹の関係とされています。

5×21-A5でみるヒアデス星団(住宅街などの明るい空)
5×21-A5でみるヒアデス星団(山間部、離島などの暗い空)
6×30-B+でみるヒアデス星団(住宅街などの明るい空)
6×30-B+でみるヒアデス星団(山間部、離島などの暗い空)
8×42-D1でみるヒアデス星団(住宅街などの明るい空)
8×42-D1でみるヒアデス星団(山間部、離島などの暗い空

M42(オリオン座大星雲)

星空の中でも最も見応えのある星雲といえば、「オリオン座大星雲」のM42でしょう。冬の代表的星座である「オリオン座の三ツ星」の南にあって、街明かりの影響の少ない場所では肉眼でもその存在は確認できるでしょう。

写真では鳥が羽を広げたような姿をしていますが、残念ながら双眼鏡で見えるのは、中央部の明るいところだけです。それでも、恒星とは違って淡く輝くようすは双眼鏡でも星雲の雰囲気をしっかり楽しめることができます。

こうした星雲は、じっくり眺めようと直視せず、少し視線を外すとぼんやりした光の塊が現れるのがわかります。これは、人の眼の仕組みとして、視線の中央よりも少し外側の方が光に対する感度が高いためです。M42のような星雲を眺める時にはぜひ試してみましょう。

5×21-A5でみるオリオン座大星雲(住宅街などの明るい空)
5×21-A5でみるオリオン座大星雲(山間部、離島などの暗い空)
6×30-B+でみるオリオン座大星雲(住宅街などの明るい空)
6×30-B+でみるオリオン座大星雲(山間部、離島などの暗い空)
8×42-D1でみるオリオン座大星雲(住宅街などの明るい空)
8×42-D1でみるオリオン座大星雲(山間部、離島などの暗い空)

春に見たいおすすめ天体

M44(プレセペ星団)

M44は黄道12星座のひとつ、「かに座」にある「散開星団」で、「プレセペ星団」とも呼ばれます。比較的暗い星ばかりのかに座は、街明かりの中では見つけるのが少しむずかしいかもしれません。

目安となるのは、冬の星空で輝く「ふたご座のポルックス」と「こいぬ座のプロキオン」です。これらふたつの1等星を結び、それを底辺として、「オリオン座」とは反対方向へ作った正三角形の頂点あたりに双眼鏡を向けてみるとよいでしょう。

やや暗めの4つの星が形作るゆがんだ四辺形の中にかすかに輝く星たちがたくさん群れ集まっているのがわかるでしょう。空の暗い場所では、肉眼でもぼんやりとした光のシミのように見えます。「プレセペ」とは、ラテン語の「飼い葉桶」のことで、四辺形の東側にあるγ星とδ星のふたつをロバに見立てたものとされています。

5×21-A5でみるM44プレセペ星団(住宅街などの明るい空)
5×21-A5でみるM44プレセペ星団(山間部、離島などの暗い空)
6×30-B+でみるM44プレセペ星団(住宅街などの明るい空)
6×30-B+でみるM44プレセペ星団(山間部、離島などの暗い空)
8×42-D1でみるM44プレセペ星団(住宅街などの明るい空)
8×42-D1でみるM44プレセペ星団(山間部、離島などの暗い空)

ご興味のあるかはこちらもどうぞ(リンク集)

スコープタウン「天文ニュース」

ヒノデの姉妹サイト「スコープタウン」では天体望遠鏡の販売をしています。「天文ニュース」のコーナーでは毎月の星空情報を発信していますが、ヒノデ双眼鏡がよく登場します。さまざまな天文現象が、ヒノデの双眼鏡ではどのように見えるのか、図版で解説されています。


スターベース東京のブログ「日の出光学の双眼鏡・星空はこう見える」

こちらのブログでも、ヒノデの双眼鏡で見たときの星空の様子をビジュアルで描いて頂いております。内容的にも非常に参考になります。


双眼鏡で楽しむ星空

ペンションスターパーティーの名物オーナー木村さんが運営するこちらのページは、双眼鏡を使った本格的な星空観察について説明しています。双眼鏡での星空観察については、国内サイトではこれ以上の内容はないかもしれません。双眼鏡で楽しめる110か所もの名所を案内する、ABKカタログは必見。


星雲星団ウォッチング(著:浅田英夫)

(画像はhttp://www.chijinshokan.co.jp/より)

約200か所におよぶ、星雲・星団の名所を案内する大定番の本。そのうち29か所が双眼鏡で観察するのに適した星雲・星団として紹介されています。


Binoculars highlights(著:Gary Seronik)

(画像はhttps://garyseronik.com/より)

こちらは英語の本ですが、図版がメインなので、それを参考にして星を見るだけでも十分に楽しめます。双眼鏡で見て楽しめる星空の名所を、99か所紹介している、見ごたえのある内容です。