フェイズコートは、ダハプリズム特有の構造が生み出す、像への悪影響をなくすためのコーティングです。

光がダハプリズムの中を反射してから焦点位置に集約していくときに、光の波の形がわずかに歪んでしまい、像が少しだけ不明瞭になります。それを補正するのがフェイズコートです。

光はプリズムの面で全反射するとき、位相を反転させる性質があります。普通は、位相が反転したところで、人間の目では判別できないので問題ありません。しかし、三角屋根の形をしているダハプリズムの場合は問題が生じます。どんなにプリズムを精度良く磨いたとしても、片方の屋根ともう片方の屋根に反射した光は位相の反転する位置が微妙にずれてしまいます。光は位相が微妙にズレた二種類の光が焦点面に集約されるとき、波がお互いに影響し合うことで、波の形が崩れてしまいます。

プリズムの全反射と違い、鏡面による反射は位相が反転することがありません。つまり、ダハプリズムの屋根の面にメッキをすることで、その部分の反射を鏡面反射にすれば、位相のズレはなくなります。これがフェイズコートの仕組みです。初期のフェイズコートは銀メッキだったといわれています。現在では恐らく誘電体多層膜が使われているのではないでしょうか。