OEMと中国生産

A社の工場で製造した製品をB社が仕入れ、B社のブランドで販売することを、OEMと呼んでいます。Original Equipment Manufacturer の略で、直訳すると、「元の機器の製造者」となります。

本来は上の例のA社を指す名詞だったのかもしれません。最近では「あれはOEMだからB社で作ってるわけじゃないよ」とか、「B社もC社もOEMでA社に作らせてるから、中身はおんなじだね」とか、そんな感じで使われています。

上の例におけるA社、つまり、実際に製造するほうの会社は「OEMメーカー」と呼ばれたり、「下請け」、または単に「メーカー」と呼ばれることもあります。

OEMメーカーは、普段、あまり表に出ることはありません。ある会社は、国内最大のOEMメーカーで、日の出光学の商品も生産しています。売上は40億円を超えるといわれていますが、自社のホームページは持っていません。業界内では有名な会社ですが、一般にはあまり知られていません。

上の例において、販売を担当しているB社は、特に決まった呼ばれ方はないようですが、「ブランド」とか、「元請け」と呼ばれたりしているようです。ちょっとややこしいので、ここでは、「元請けブランド」と呼びましょう。皆さんが良くご存知の有名カメラメーカーから、外国からの輸入販売を得意とする商社まで、様々な「元請けブランド」が存在します。

元請けブランドは、製造はしませんが、製品仕様や販売価格を決めたり、OEMメーカーと仕入価格の交渉をしたりします。生産設備(金型など)に出資することもありますし、製品の検査をすることもあります。さらには、外装デザインや、光学設計をすることもあります。

国内に流通している双眼鏡の90%以上は、OEMメーカーで生産されていると考えてよいでしょう。元請けブランドはどんな大手でも、ほとんど自社では生産していません。OEMメーカーは、かつて、東京都板橋区周辺に、数百社あったといわれています。その数百社で、世界の双眼鏡の半分以上を生産していたそうです。

現在では、そのうち、数十社が製造を続けていますが、半分以上の生産が中国に移りました。中国の工場の中には、中国資本の会社もありますし、日系の会社もあります。中国資本の工場には、まだまだレベルの低いところも多く、元請けブランドが作らせてはみたものの、検品に手を焼いているという話も聞こえてきます。

元請けブランドは、ブランドを背負っているので、おかしな製品を出すわけにはいきません。ですから、様々な設備や装置を使って、細部にわたる検品を行います。

日本製の場合は、入荷した双眼鏡から一定の数を抜き取って検査すれば、大抵の場合は十分です。一方、中国製品の場合は大変で、全品検査が必要なこともあります。さらには、日本製と同じ基準で検品しようとすると、不良品が多くなりすぎて商売にならないので、検品基準を落とすケースもあります。

もちろん、日系の会社を中心に、中国製といえどもレベルの高い双眼鏡を作っている工場もあります。たとえば、日の出のラインナップのひとつを作っている、ある中国工場では、日本製とほとんど変わらないクオリティーの双眼鏡を作っています。この工場では、大手メーカーが、5万円を超える価格で販売している双眼鏡も製造されているそうです。ただ、そのための努力は並大抵のものではありません。

まず、中国の工場には、社長自らが出向きます。その社長は一年の半分以上を中国で過ごし、品質の維持に力を注ぎます。部品を供給する下請け工場も、金型を作る工場も、日系の工場を選ぶことが多く、中国にありながら、そこはさながら小さな日本です。もちろんその分、コストは高くなりますが、それでも日本で作るよりは大幅に安くなります。

一言で「中国製」といっても中身はずいぶん違うのです。そういう意味では、中国製が良いか悪いか、という議論はすでにナンセンスなのかもしれません。